相続登記の義務化 – 仙台市泉区の品川直人法律事務所(相続専門サイト)

応接室相続一般

 これまで,遺産分割を行う期限について法律上の定めがなく,相続登記の申請も義務ではないこと等から,登記名義人が死亡しても遺産分割がなされずに放置される事例が多くありました。

 これによって,国内に多数の所有者不明土地が存在することになり,その対策として相続登記の義務化など重要な改正が行われることになりました。


 改正の詳細については立案担当者の解説等がありますので,以下では一般の方向けに概略のみご説明します。

所有者不明土地とは?

 

 所有者不明土地とは,①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地,②所有者が判明しても,その所在が不明で連絡が付かない土地を言います。平成29年の国交省の調査によると,国内全体の22%が所有者不明土地であり,その原因の66%は相続登記が未了であるとのことです。

相続登記の義務化とは?

 相続により不動産を取得した相続人は,「当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内」に相続登記の申請をすることが義務づけられることになります(改正後の不動産登記法76条の2第1項)。


 正当な理由のない申請漏れには,過料の罰則が定められています。なお,遠い親戚の土地の相続など,その土地の所有権を取得したことを知らない場合には,義務は発生しません。

 

 相続登記を義務化することにより,登記簿を見ることで登記名義人が生存しているか否かや,現在の所有者(相続人)の住所・氏名を把握することが可能となり,土地の利活用が促進されることが期待されています。

 

 なお,条文の作りからすると,ここでいう「相続登記」とは,法定相続分による相続登記を指します(以下,「相続登記」の用語はこの意味で用います。)。

相続人申告制度とは?

 相続登記の申請は,現行法上でも相続人一人で単独申請が可能です。
 

 しかし,被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得して全ての相続人を確定したうえで,それぞれの法定相続分を確定する必要があります。
 

 単純な相続関係であればともかく,何世代も前から放置されているような場合には,容易なことではありません(利用価値の見いだされない土地で相続登記がは放置されている理由の一つでもあります)。

 

 この問題の対処として,新たに相続人申告登記制度が設けられることになりました(改正後の不動産登記法第76条の3)。

 相続登記の義務を負う者が,「登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出る」ものです。申出方法など本制度の詳細については,法務省令により定められることになっています。

相続人申告制度のメリット

 相続人申告制度を利用することにより,相続登記の申請義務を比較的簡易に履行することができます。
 

 具体的には,相続人一人で申出できるのはもちろんのこと,全ての相続人を確定するための戸籍を収集する必要はなく,自分が死亡した登記名義人の相続人であることが証明できる範囲の戸籍の収集・提出で足りることになります。

 申出があると,法務省が職権で住所・氏名その他の情報を付記登記することとされています。

 相続登記の義務履行のために相続登記と相続人申告登記制度のいずれかを選択できることになりますが,特に多数の相続人がいる所有者不明土地については,相続人申告登記制度の利用が多くなるであろうと予想されます。

いつまでに相続登記又は相続人申告を行う必要があるのか?

 相続登記義務化関係の改正については,令和6年4月1日から施行されます。
 

 それ以前に発生した相続についても義務化の対象となり,

 ・ 令和6年4月1日

 ・ 自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日
 

 のいずれか遅い方から3年以内に相続登記(又は相続人申告登記の申出)を行う必要があります。改正以前に発生した相続についても遡求して義務化の対象となりますので,対象となる方の多くは,令和9年3月31日が期限になると考えられます。

遺産分割との関係は?

 遺産分割による所有権移転登記についても,これまで期限はありませんでした(もっとも,相続税の課税対象となる場合には,相続税の申告期限を意識して手続を進めることになります)。

 

 こちらについても,今回,相続登記の義務化に伴い,追加的に申請期限が設けられることになりました。

 具体的には,

  1.  相続登記をした後に遺産分割が成立した場合には,「当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内」に遺産分割による所有権移転登記を申請する必要があり,
  2.  相続人申告制度を利用した場合には,その後の遺産の分割によって所有権を取得したときは、その者は「当該遺産の分割の日から三年以内」に、所有権の移転の登記を申請する必要があります。

 なお,相続登記義務の期限内に遺産分割が成立し,取得した者が所有権移転登記をした場合には,別途相続登記をする必要はありません(この場合は,一回の登記で済むことになります)。

 そのため,(可能であれば)遺産分割による所有権移転登記をするための手続を進めておき,期限までに遺産分割成立の見込みがないようであれば,期限前に相続登記をするか,相続人申告制度を利用して対応することになるでしょう。

関係規定の抜粋

このページの内容に関する不動産登記法の主な関係規定(令和6年4月1日施行の改正条文)

(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

(相続人である旨の申出等)
第七十六条の三 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。
4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。
6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。